名古屋高等裁判所 昭和36年(ネ)344号 判決 1962年5月28日
控訴人 愛知商工協同組合
被控訴人 破産者国民製菓株式会社 破産管財人 若山資雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴組合代表者は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張は、それぞれ左記のとおり陳述したほか、原判決事実欄の記載と同様である。
一、被控訴人の陳述
国民製菓株式会社は、昭和三三年一二月二七日に支払停止をした。
一、控訴組合代表者の陳述
国民製菓株式会社が被控訴人主張の日に支払停止をしたことは不知である。
控訴組合は、国領善之助から、金額一三万円、振出日昭和三三年一一月二日、満期日同年一二月二七日、支払場所株式会社東海銀行庄内支店、振出人国領善之助、引受人国民製菓株式会社なる為替手形の割引を依頼されて、同年一一月五日その割引をし、満期日に支払場所において右手形を呈示したが、その支払が拒絶された。
控訴組合は、組合員に対する金融を唯一の事業とし、受信行為(預金の受入等)をすることのできない組合であるが、控訴組合は、国民製菓株式会社が支払を停止し破産の申立を受けたことを全然知らなかつた。
証拠の提出援用および書証の認否その他の証拠関係は、控訴組合代表者において、当審における控訴組合代表者本人吉田浜治の供述を援用したほか、原判決事実欄の記載と同様である。
理由
国民製菓株式会社(以下これを国民製菓会社と略記する。)は、昭和三四年一月二一日株式会社大興商会から破産の申立を受け、名古屋地方裁判所同年(フ)第三号事件をもつて同年四月二日破産の宣告を受け、即日その破産管財人に被控訴人が選任された。そして控訴組合は、右の国民製菓会社に対する名古屋簡易裁判所同年(ロ)第九二号事件の仮執行宣言附支払命令の正本にもとづき、国民製菓会社が名古屋信用金庫に対して有している(イ)七万二〇〇〇円の出資金償還債権、(ロ)二万七一九五円の普通預金債権および(ハ)三万五〇〇〇円の定期預金債権につき、名古屋地方裁判所同年(ル)第八九号事件をもつて債権差押および転付命令の申立をし、同年三月三一日その命令を受け、これにもとずき同年六月五日ころ名古屋信用金庫から前記(イ)(ロ)の債権の弁済として合計九万九一九五円の支払を受けた。叙上の事実は、いずれも当事者間に争がない。
次に成立に争のない乙第一、二号証、原審における証人滝村邦彦、同国領善之助および控訴組合代表者本人吉田浜治の各供述ならびに当審における右本人吉田浜治の供述を総合すれば、
一、控訴組合(名古屋市西区所在)は、愛知菓業商工協同組合という名称を使用し、菓子製造販売業者ならびにその関連業者を組合員とし、事実上もつぱら組合員に対する資金の貸付および組合員のためにする資金の借入の事業だけを実施して来たものであり、その組合員は、国領善之助ほか約三〇名であつた(もつとも、昭和三五年一二月に名称を愛知商工協同組合と変更し、かつ組合員となり得る資格を緩和し、現在の組合員数は約一〇〇名である。)。
一、控訴組合は、右国領より、金額一三万円、支払期日昭和三三年一二月二七日、振出人および受取人いずれも国領、引受人(支払人)国民製菓会社なる控訴人主張の為替手形一通の割引を依頼され、同年一一月五日これを承諾し、その割引をして、右手形の裏書譲渡を受けた。
一、ところが、国民製菓会社(名古屋市西区所在)は、昭和三三年一二月中旬ころから急に金融が切迫し、結局支払期日の到来した手形債務等の支払をすることができなくなつて同月二〇日手形二通の不渡を出し(翌二一日は日曜日)、同月二二日以降は引き続き毎日手形四、五通あての不渡を出すような状態となつた。このような事態に立ち至つたので、同会社代表取締役滝村邦彦は、近い将来債権者等の集会を開いて会社債務の整理等につき協議する必要のあることを考慮して、同月二二日主として履行期の到来した会社債務の債権者等に対し、電話にて順次、会社が債務の支払をすることができない状態になつた旨を通知した。しかし、右会社は、当時なお前記(イ)(ロ)(ハ)の債権を有しており、国領は、右会社と取引をしていた関係上、右債権の存在、その大体の債権額等を知つていた。
一、控訴組合は、前記為替手形の支払期日の翌々日なる同月二九日支払場所において、その手形を呈示して支払請求をしたが、支払が拒絶された。そこで控訴組合代表理事吉田浜治は、ただちに電話にて国民製菓会社に交渉し、更にそのころより昭和三四年一月上旬までの間において、国領に対し手形の支払請求をして、種々交渉し、その際、国領より、「国民製菓会社は、事業状態が悪くなり整理することになり、自分の債権も取立ができなくなつたので、困つた。」、「国民製菓会社は、名古屋信用金庫に対して出資金、預金等の債権を有しているから、これに対して早く転付命令でもかけて、同会社の方から手形の取立をするようになされたい。」などと告知された。
一、それで右吉田は、昭和三四年一月早速前記為替手形債権につき叙上の支払命令を受け、更に種々調査をして、右命令にもとづき、前記認定のように、債権差押および転付命令を受け、その結果、控訴組合は、名古屋信用金庫から合計九万九一九五円の支払を受けることができた。
という事実を肯認するに十分である。原審および当審における本人吉田浜治の各供述のうち右認定に抵触する部分は信用し難い。
そして上記の事実関係のもとにおいて、国民製菓会社代表取締役滝村が昭和三四年一二月二二日主として履行期の到来した会社債務の債権者等に対し、電話にて順次、会社が債務の支払をすることができない状態になつた旨を通知した行為は、履行期の到来した会社債務を中心にしてしたものではあるけれども、なお債務者が即時に支払うべき金銭債務を一般的に支払うことができない旨を表明した行為とみてさしつかえがないから、滝村の右行為をもつて会社の支払停止行為があつたということができる。
叙上認定のすべての事実と原審における証人滝村邦彦、同国領善之助および本人吉田浜治の各供述ならびに当審における本人吉田浜治の供述とを総合して更に考察すれば、控訴組合代表理事吉田は、遅くとも昭和三四年一月一〇日ころまでには、国民製菓会社支払停止の事実を知つたものと認定することができる。この認定に反する原審および当審における本人吉田浜治の各供述部分は、とうてい採用することができない。
なお、破産法第七二条第二号にいわゆる破産債権者を害する行為は、破産者の意思にもとづく行為に限定されず、場合によつては破産者の意思に反するものであつてもよく、本件の転付命令にもとづく債権の取得は、右の破産債権者を害する行為にあたるから、被控訴人が本訴を提起して前記転付命令にもとづく債権移転の効果を否認したのは、正当である。
以上のとおりであるから、控訴組合は、被控訴人に対し、名古屋信用金庫から受領した金員に相当する九万九一九五円およびこれに対する本件訴状が控訴組合に送達された日の翌日なる昭和三四年一〇月一四日以降右完済に至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
故に被控訴人の請求を正当として認容すべく、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。それで控訴費用の負担につき民事控訴法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決をする。
(判決官 石谷三郎 吉田彰 大内恒夫)